未来の価値 第59話


「で、どういう事なの?」
「ナナリーが誘拐された」

C.C.は変装しており、一見しただけでは彼女だと解らないだろう。スザクも大々的にテレビに映ったことで、顔が知られているからと軽く変装をしていた。二人は辺りを警戒しながら学園を出、迷う事の無い足取りで先へ先へと進んでいった。

「それは聞いた」
「誘拐した男の名はマオという」

犯人を特定しているのかとスザクは僅かに安堵した。
ルルーシュが動いているのだから当然か。

「マオの目的は私だ。おそらく、先日のお前とユーフェミアの叙任式で映ってた私を見たのだろう。政庁に探りを入れ、クラブハウスに妹のナナリーがいる事を知ったマオは、ナナリーを誘拐した」
「・・・まって、どうやってナナリーの事を?いや、偽りの妹だったという情報からか」

テレビでも散々取り上げられていたのだ。そのつながりからナナリーを見つけたしたのだろう。とはいえまだナナリーに目をつけるものがいるなんて厄介だなとスザクは目を眇めた。

「いや違う。ナナリーが本物の妹だと知って誘拐している」
「え!?まさか、そんな情報は」
「誰かに聞く必要は無いんだ。マオは、人の心が見える。いや、聞こえるから」
「心が?」
「お前には超能力と言った方が解りやすいか?その中にテレパシーというモノがあるだろう?道具を使わずに、相手と交信する能力だ。マオはテレパシーの受信機で、本人が望まなくても周りの声が頭の中に勝手に流れて来てしまう。だからどんな機密情報もマオの手にかかればあっという間に奪われる」
「・・・ふざけてるの?超能力なんてあるはず無いだろう」

しかもどんな情報も筒抜け?
そんな便利な能力があれば、戦争は一変するだろう。
ブリタニアが、放置しておく筈がない。

「あるんだよ。この世にはお前には理解できない不可思議な力が存在する。だからこそ私は動きを封じられ、ルルーシュ達も手をこまねいている」

普通の相手ならば、とっくに解決していただろう。
なにせ 昨夜から動いているのだから。
クラブハウスにたどり着いた頃を見計らい、ルルーシュの携帯にマオは直接連絡を入れてきた。ナナリーを、誘拐したと。あれからどれだけの時間が経ったか。

「ルルーシュは考えてから動くタイプだから、全ての思考を知ることのできるマオは天敵と言っていい。ルルーシュでは、マオには勝てない。絶対にな」

何より、ナナリーを奪われた事で激しく動揺している。
だから余計に、マオを捕えられないのだ。
足早に歩いた二人は、小声で話しながら地下鉄に乗り込んだ。平日のこの時間は人がほとんど乗っていなかったため、人のいない車両を選び並んで座った。

「そんなことないだろ?あのルルーシュだよ」

いくら考えを読まれても、ルルーシュなら対処できるはずだ。

「ルルーシュはいくつもの思考を同時に行える化物じみたやつだが、マオは周りにいる何百という人間の思考を同時に受信できる。マオにとっては、10や20の思考などあってないようなものだ。全ての思考は読まれ、マオの掌で遊ばれて終わる」

最悪の、敵なんだよ。ルルーシュにとっては。

「だから、お前を待っていた」
「僕を?」
「朝になれば、ルルーシュの不在は知られるだろう。そうなれば、お前は動く。たとえ、ユーフェミアの騎士でもな」

必ず来ると思っていた。
だから、大人しくあそこで待っていたのだ。
反撃をするならば、スザクというカードが必要だったから。

「ルルーシュにとってマオの能力は最悪だが、お前にとっては関係ないだろう?」

何せ、頭で考えて動くタイプではないから。
思考より先に動いてしまえば、マオには対処できない。
いうなれば、マオにとって天敵となりえる男なのだ。

「・・・まあ、そうだけど、それでも不利には違いないんじゃない?」

右に動くか、左に動くか。
それが知られるだけでも勝率が下がる。
頭より先に体が動いても、それでも何も考えていないわけではない。
些細なひらめきや直感を読まれ対策されてしまえばどうにもならない。

「そうだな、ルルーシュよりまし程度かもしれない。私は、マオに勝てた人間を知らないから、どうすればアレに勝てるかは正直解らないんだ。マオの恐ろしい所は、その気になれば心の奥底、深層心理にも入り込み、全ての記憶を暴きだすところにある」

過去の記憶を、トラウマを、秘め事を、あらゆる情報を引き出し、それを利用し相手を操るのがマオだ。

その言葉に、スザクの顔色はさっと変わった。

「・・・考えている事を、読むだけじゃないの?」

いま、思っている事だけが伝わるだけじゃない?

「考えている事も読むが、脳に蓄積された情報も読む。なんだ、知られて困る事でもあるのか?」

顔を青ざめ、明らかに動揺し、口を閉ざしている姿は、尋常ではなかった。
なんだ?ルルーシュに対する思いか?あれだけの執着を友情だけで片付けるのはそもそも難しい。元々この国の首相の息子だった男が、友人の従者になりたいというのもどうにも納得が出来なかった。子供のうちは、まだ戦争前だったなら、騎士という存在に憧れを抱いた可能性はあっただろう。だが、今もまだそれがあるとは思えない。
騎士という身分はルルーシュとナナリーを護るための手段だというが、はたしてそれだけなのだろうか。この男のルルーシュへ向ける感情。それはもしかして。だから、それを知られるのを恐れているのだろうか。
いや、それにしては、顔色が悪すぎる。
動揺しすぎている。
他に何かあるのか?
可愛い顔をしているから、もしかしたらこうして地位が安定するまでの間、手ひどい目にあっていた可能性はある。どれほど強くても所詮は子供。大人の力で抑え込まれれば何もできなかっただろう。軍に入れば上官たちの目にも触れることになり、抵抗する事も許されずに。・・・あり得るな。それを知られるのを恐れているのか。
ルルーシュはスザクが傷つき汚れる前に回収したかっただろうが、とうの昔に傷ついてしまっていたという事だ。顔が平均以下ならばよかったのにと、泣いた事もあるだろうに・・・。それはそれで需要があるかもしれないが。
だが、ルルーシュがそれを知っても、スザクを嫌うどころか、そんな事をした者たち全員探し出し、ギアスで廃人・・・は無理でも、それ相応の罰を与える事は間違いない。
ずっと黙り続けている男を見ながらそんな結論を出していたC.C.だったが、スザクの口から出てきた言葉は、そんな予想とは180度違う物だった。後にC.C.は、自分にそんな人間らしい汚れた心が残っているとは思わなかったと反省していた。

「僕は・・・」

暗く沈んだ表情と、声。
C.C.は無意識に辺りに視線を向けた。
今この車両にいるのは私たち以外には後から乗ってきた二人。席は離れているから大丈夫だろう。あまりにもスザクの声が冷え冷えとしていて、C.C.は触れてはいけないものに触れのだと悟った。

「・・・・僕は、父さんを・・・父を、殺したんだ」

告げられた言葉に、C.C.もまた表情を消した。

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